3行でどんな作品か説明するブログ

おもしろかった小説、映画、漫画などをおすすめします

善意は、悪意より恐ろしい。「ユートピア」は人間関係の嫌な部分を詰め合わせた心が重くなる小説

ユートピア (集英社文庫)

 

 

3行でわかるあらすじと感想

 

あらすじ

・田舎町に住む3人の女性が『クララの翼』という車椅子の子のための慈善団体を立ち上げる

 

・テレビ出演などをすることにより、3人の関係がギクシャクしていき、さらには町全体に「詐欺」などの悪い噂が広まっていく

 

・さらには数年前に殺人を犯した『芝田』という男がこの街に戻ってきたという噂も広まり……

 

感想

・人間の嫌な部分が随所にでていて暗い気持ちになるが、読み進めるたびにそれが癖になっていく

 

・田舎町特有の女性同士のプライドの張り合いや、縄張り意識、貧富の差による劣等感などがリアルに描かれていてリアリティがある

 

・ラストで明かされていく謎やそれぞれの思惑が予想外であり、この小説を象徴している展開になっている

 

 

詳しいあらすじと感想

 

あらすじ

 

この作品は鼻崎町という架空の田舎街が舞台となっており、3人の女性を軸に話が進んでいく。

鼻崎町に生まれたときから住んでいる菜々子、夫の転勤がキッカケで引っ越してきた光稀、そしてこの街が気にいって移住してきた陶芸家のすみれ、この3人を中として話は進んでいくのだが、物語の核となっているのは菜々子の娘である久美香だ。久美香は足が悪く、車椅子で生活をしているだが、この「車椅子」がこの小説の肝になっている。

鼻崎町は観光の名所もないような廃れている田舎町なのだが、すみれのパートナーである宮原健吾が芸術家を集めて、小さな村のようなコミュニティを形成している。

その移住してきた芸術家たちを中心として街を盛り上げようとお祭りを開催したところで、事件が起きる。お祭りで火事が起きてしまい、車椅子の久美香が逃げ遅れてしまうのである。その事件がキッカケとなり、陶芸家のすみれは『クララの翼』というブランドを立ち上げ、その売上げを車椅子の子どもたちに寄付することにした。しかし、そのブランドを立ち上げたことによって、あらぬ噂が広まっていき、少しずつ歯車が狂っていく。さらに街にはかつて殺人を起こした犯人である芝田が、戻ってきたという噂も広まり ------

 

感想

 

善意は、悪意より恐ろしい。

 

この帯に書いてあった一文で購入を決めたのだが、言葉の通りに読んだあとに胸の中にドロっとした気持ちが広がる小説だった。急に暗い気持ちになるわけではなく、毒のようにじわじわと侵されていくように、少しずつ少しずつ人間の醜い部分が見え隠れする。

 

この小説の最大の魅力は、等身大のドロドロとした人間関係がリアルに描かれているということだ。陶芸家のすみれは都会から田舎に引っ越してきているので、「ここが自分にとっての理想郷だ」と胸を弾ます一方で、この街に転勤でしかたなく住み始めた光稀はどこか地元の人を見下している感じが否めない。立場がそれぞれ違うので、同じ鼻崎町でも見え方がまったく違うのだ。

 

これは田舎に僕も住んでいたからよくわかるのだけど、都会から来た人が「あー、自然があって何もない感じが良いよね」などという言葉は外の人だから言えることなのだ。「何もない」というのは贅沢でもないし、スローライフが楽しめるわけでもない。そこにあるのはただただ退屈な日々だけなのだ。

都会出身であれば田舎町に少しだけいて、便利で発達した街にすぐに戻れるかもしれないが、田舎の人はその小さなコミュニティで一生を過ごさなければならない場合だってある。小さな檻の中で、人間関係を壊さないように周りに怯えながら生きていかねばならないのだ。 (もちろん楽しんで生きている人もいるが)

そうして退屈な日々がただただ続いてくだけであれば、人間は必ず刺激や変化を求めるものだ。すると矛先はどこに向くのか。そう、噂話だ。愚痴や人の悪口、陰口ほど簡単に得られる刺激はなかなか他にはない。

ユートピアでもそれらが鮮明に描かれており、小説を読みながら「あー!田舎にいるよね、こういう人」と、読んでいて何度も頷いてしまう。作者の湊かなえさんは広島の因島市(現在は編入され消滅)出身であり、同じように田舎に住んでいたからこそ見えていたものがあったのかもしれない。

 

田舎特有の人間関係もそうであるが、この小説ではコミュニティや他人に対するプライドで歯車が狂っていく。クララの翼というブランドをキッカケにして、すみれ、光稀、菜々子、そして菜々子の娘である久美香はテレビや雑誌に出始める。

メディアに出るとなると、当事者の3人にもそれぞれの思惑や思想の食い違いで出てくる。芸術家としてのプライドがあり有名になりたいすみれは当然メディアには出演したいという想いがあり、一方で菜々子は娘が世間にさらされることを懸念している。

そもそもクララの翼というブランドが有名になったのは、光稀の娘である彩也子が書いた作文が新聞に載ったことに由来するのだが、メディアに出演するのはすみれと久美香だけであり、光稀は爪弾きに合ったような気持ちになる。こういったところから少しずつ3人の気持ちが離れていく。

それぞれの小さなプライドや牽制のしあいに重なった上に、徐々に鼻崎町には嫌な噂が広まっていく。こういった大人同士の人間関係のもつれもある中で、噂話は久美香の通う小学校でも広がっていく。「久美香が歩いているところを見た」というものもあり、車椅子自体がウソであり、テレビに出たのは詐欺だということも言われるほどだ。そしてそれを確かめるようにイジメに近いことも起きていく。

 

こういった人間関係が徐々に徐々に積み重なる中で、小説を読み進めるに従ってどんどんとキャラクターたちの黒い本性も明らかになっていく。鼻崎町という小さな街で起きることは、田舎に住んでいる人だけでなく、小さなコミュニティで生き続けなければいけない人間にとっては明日は我が身の話しである。

 

 

「ユートピア」という言葉はそもそもイギリスの思想家トマスが出版した書籍であり、その中で理想郷とされている国である。しかしその意図は理想郷を描く反面で、現実社会を批判するというところにある。

本当の意味での理想郷というのは、人間が共存する限りはありえないことなのかもしれない。

 

 

 

 

 

ユートピア (集英社文庫)

ユートピア (集英社文庫)

 

 

 

 

告白

告白

 

 

(湊かなえと言えば映画化された『告白』でもおなじみ)